【Interview #1】講談師 日向ひまわり(2/3)

インタビュー
いい顔で日々を過ごしている人は素敵である。「量」の時代から「質」を重視する時代へシフトしている昨今において、“人生の豊かさ”のようなものを求めたくなるものです。記念すべき第1回目は女性講談師の日向ひまわりさん。前回までのお話の続きで、師匠との出会いや経験の積み重ねにより「自分のスタイル」に近づいたお話をしていただきました。では、その続きをどうぞ。

好きなことについて

【あだっち】
前回のインタビューで「(芸の文脈で)自分にはこれしかない!」とおっしゃっていましたが、その感覚はどのような感じですか?例えば「好きなことを仕事にした方がいいよ」などと言われますが、“好きなこと”なのに辛い時とか、“好き”と“楽しい”ことが繋がらなかったりすることはないですか?稽古は厳しくしんどいといった感情もおありかと…。

【ひまわりさん】
そうですよね。楽しいことばかりではないですよね。

【あだっち】
だけど振り返って見ると、辛い稽古や厳しい環境を時に愛おしく思ったり、更にはどこか求めてしまっている自分がいたりして。そこでお聞きしたいのが、ひまわりさんにとっての「好きなこと」の定義とは何ですか?

【ひまわりさん】
定義ですか・・・それは難しい質問ですね。パッと思いつきませんが、好きな瞬間はあります。

【あだっち】
それはどのような時ですか?

【ひまわりさん】

高座に上がってお客様と向き合っている瞬間、瞬間ですね。「あっ!今日はこっち(私の方)にお客様の気持ちがぐっと来てる」笑ってもらったり、真剣な場面でお客様が固唾を飲んで向き合ってくれている、その瞬間にしか分からないものを感じるときがあるんです。私はこの瞬間が好きで、それを味わいたくて毎回高座に上がっているように思います。

大変だなぁ、参ったなぁと思うこともありますが、そこには私の喜びが間違いなく存在している。結局それが「好き」ということになるんだと思います。

【あだっち】
その瞬間が好き…高座には醍醐味のような空間と時間が存在するのですね。羨ましい感覚です。好きという瞬間を感覚的にお持ちなんですね。

しんどさと充実感

【ひまわりさん】
あと、ご質問にあった渦中はしんどいという話ですが、例えば「稽古を含む準備期間は全く辛くない」といったら私の場合、嘘になります。しんどくないわけはなくて、一席務めて高座を下りてくるといつも反省ばかりです。気持ちよく高座を下りてくるのは年に数回、それはもうご褒美みたいな感じです。それがあるから辞めないでいられますね。

【あだっち】
納得のいく芸は普段と何が違うのですか?

【ひまわりさん】

納得のいく芸と思えるものはこれまで一度もないと思います。ただ、はっきりは分からないですけど、お客様、その日の会場の雰囲気、体調、全てが連鎖しているように思います。それらが混ざり合って、結果的に「今日は色々失敗もあったけど、すごく気持ちいい高座だった」って思える日があるんです。

【あだっち】
それも感覚的なものですか?極端に言ってしまえば“何となく”といった世界ですか?

【ひまわりさん】
そうですね(笑)周りからすれば「今日、そんなに良くなかったじゃん」という感じだったとしても、自分ではすごく気持ち良い高座だったと思えることがたまにある。15分や20分の高座の中でお客様とのちょっとした心のやりとりを感じたりすると、その瞬間嬉しくなります。でも、良かったことを次の高座へ持っていくなと言われます。

【あだっち】
その意図は?

【ひまわりさん】
昨日と今日のお客様は違いますし、もしかしたら会場も別で、私の体調も声の調子も違うかもしれません。良かったという感覚を引きずるとただ同じものを目指してやってしまう。目の前のやるべきことがわからなくなるので、嬉しい気持ちはその場、その場に置いてくるようにしています。でも、帰りの電車で思わず笑ったりはしますけど(笑)。

【あだっち】
お話を伺っていて、ひまわりさんは本当に講談が好きなんだなと思いました。言葉もイキイキされてますし、笑顔がとても印象的です。せっかくなので、もう少しこの話題を広げさせて下さい

【ひまわりさん】
どうぞ!!

世の中のニーズとやりたいこと

【あだっち】
世の中的のニーズと自分のやりたいことが違っているときは何を基準に仕事(芸)を選んでおりますか?ちょっと自分のスタイルを崩すとニーズに応えられると分かっていて、だけど本当にやりたい自分らしさとずれている時に、自分らしさをどのように表現されますか?

【ひまわりさん】
そうですね。求められるものが自分の得意分野ではないことも確かにあります。経験値を上げる上では様々な新しい経験は必要だと思いますが、これは私じゃないほうが良いんじゃないかなと思った時は「自分には向かないので、〇〇さんにご依頼されては?」と伝えることもあります(笑)。ご依頼いただいた仕事を頑なに断る事はしませんし、受けた高座は全力でやりきますが、無理をしすぎないよう心がけています。

【あだっち】
自分の感性と周囲の感覚のバランスを大切にされてますよね。独りよがりにもならないですし、かといって環境に合わせすぎないことが大切なのかと思いました。

【ひまわりさん】
そこが重要です。
琴柳先生から「客席に降りてお客様の脇の下をくすぐるような芸はするな。きちんと芸でお客様に楽しんでもらいなさい」と言われました。そして、“ゲビルな”と。

【あだっち】
何ですかそれ?げ・・げびるな?

【ひまわりさん】
げびるなって、下品になるなってことですね。どんなにおちゃらけていても、どこかに品がないといけないんです。だから「ここは笑うところですよ~」って無理やりお客様に押し付けるようなやり方はしたくないんです。・・・これって話まとまっていますか?話があっちいったりこっちいったりで。

【あだっち】
バッチリです。むしろこれがいいんです(笑)自分が大切にしていることはまさにこの「散らばり」なんです。人の興味のド真ん中がどこにあるかは、こちらでは分からないので。。好きなことと求められている事に応えることのバランス、とても興味深かったです。

つづく

▼前回のインタビューは下記のリンクへ

足立 潤哉

足立 潤哉

人材育成を生業としている30代後半の管理人が、純粋に“善い”と感じたものを残していくためのブログです。 活動拠点:茨城県つくば市

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