【Interview #1】講談師 日向ひまわり(3/3)

インタビュー
いい顔で日々を過ごしている人は素敵である。「量」の時代から「質」を重視する時代へシフトしている昨今において、“人生の豊かさ”のようなものを求めたくなるものです。記念すべき第1回目は女性講談師の日向ひまわりさん。いよいよ最終回となります、最後までお楽しみください。

多様なキャリア、多様な輝き

【あだっち】
少し個人的に興味があるテーマに移らせてください。世の中では「100年人生」やアスリートに対しては「セカンドキャリア」という言葉をよく耳にします。ひまわりさんは前回の公演の際に「私の人生はある意味行き当たりばったりで、人の助けによって生かされている」とおっしゃっていましたが、実際に未来を明確に描いていなかった自らの人生を振り返ってお話を聞きたいです。

【ひまわりさん】
私が講談の世界に入る前に通っていた(アナウンスや声優を養成する)専門学校の先生が「輝いている人っていうのはね、別にスポットライト浴びている人ばっかりではないんだよ」っておっしゃっていたんです。

【あだっち】
お〜!!それって何歳のことですか?

【ひまわりさん】

18歳の時ですね。ベビーカーを押しているママさんがものすごく子育てに生きがいを感じていてキラキラ輝いている人もいれば、全く違う場所で輝いている方はたくさんいる。テレビやラジオで活躍している人は多くの人の目に留まる職業で目立つが、だからといってそれが必ずしも立派であるとは限らない。その人が何を考え、どう生きているかが重要だと言われました。

休みのない4年間の下積み生活

【ひまわりさん】
その時は、まだ有名になりたいと思っている時でしたし、芸人になる前でした。こうやって東京まで出てきたんだし、「何か・・・何か自分も!」っていう風に思っていたので、先生に言葉が素直にスッと入らなかったですね。その言葉の意味を掴めていませんでした。でも芸人になって前座修業するうちに少しずつわかってきました。18歳で恩師の言葉に出会い、芸人になったのが19歳。前座修業をして22歳で二つ目に昇進するまでは里帰りもできない状況でしたが、この4年間にたくさんの大切なのものが詰まっていたと思います。

【あだっち】
休みがないということですか?

【ひまわりさん】
はい。4年間の前座修業はいわゆる下積みで休みは一切ないです。成人式も出られなかったですし、盆も正月もないです。

【あだっち】
えー!!そうなんですね。その環境をどのように捉えていましたか?

【ひまわりさん】
芸人の修業はそうゆうものだと教えられ、自分でもそうゆうものなのだと思っていたので特に不満はありませんでした。世の中を知らない強さと言うか、素直さと言うか(笑)。前座の頃は何を言われても純粋に受け止め、一生懸命やっていました。やはり、素直さに尽きるのではないかと。

【あだっち】
素直さに尽きる・・・なかなか聞かないフレーズですね(笑)

【ひまわりさん】
そうですよね(笑)。田舎から出てきて間もなかったですし、本当に何も知らなくて、でもそれが良かったんだと思います。素直でい続けることができました。あの、ご質問いただいたものに繋がるかどうか分かりませんが、芸との向き合い方、生き方について少しお話してよろしいでしょうか?

【あだっち】
是非!それ聞きたいです!

「“普通”であることを大切にする」ことの大切さ

【ひまわりさん】
ではお言葉に甘えて(笑)。芸人はプライベートを出してはいけないと師匠から言われました。例えば、「結婚しています」「子供がいます」といった情報は言うべきではない、と。芸人は謎があるくらいでちょうどいいという昔からの習わしがあって、プライベートのことをベラベラ話すなと言われていたので今でも高座では自分から話すことはありません。

【あだっち】
そのような線引きがあるのですね。

【ひまわりさん】
はい。私は36歳の時に子供を授かりました。お腹が大きくなった状態で高座に上がるのは避けようと思い、寄席には早めに休み届けを出しました。休みに入る前、可愛がってくれていた落語の先輩と会ったんですけど「この先輩には子供を授かったことを事前に伝えたい」と思いました。

【あだっち】
素敵な感情ですね。

【ひまわりさん】

「しばらく寄席は休むのですが・・・」と伝えると、まず子供ができたことをとても喜んでくれて、こう言ってもらいました。「もし、休むことを気にしているなら何も気にすることはない。子供を授かり育てるというこの経験は何らかの形でお前自身を育てることになり、それが必ず芸に繋がる」と。もちろん、芸のためにそのために子育てをするわけではないですが(笑)。

【あだっち】
(笑)

【ひまわりさん】
ネタの中の登場する人物は身近にいそうなおっちょこちょいな人だったり、人情味あふれるおっかさんだったり。そんな日常にある当たり前のことを当たり前に感じられる心があるからこそ、できるネタがある。だから普通であることは恥ずかしいことじゃない。奇人変人くらいがいい芸ができるという人もいるが、芸人らしくという言葉に捉われなくていい。普通だからこそできる芸があるはずだ。だから今の時間を大切にしなさいと言われました。

【あだっち】
確かに芸人ってイメージが強いですよね。本当はそれぞれに違いがあるけど、ひとまとまりにして捉えられる感じですかね。

【ひまわりさん】
そうですね。少し誇張した言い方ですが、「幸せであってはダメだ」くらいなイメージがあったりします。その先輩はとても家族思いの方で、「この人の落語を聞くと心がほっこりするなぁ」「何席でも聞いていたい」と思える高座を務められる師匠でした。常識人で、いい人の塊のような先輩でしたので私も大好きで、でも本やドラマで出てくる“芸人”のタイプではなかったです。もしかしたら、その先輩も自分が普通であることや芸について悩んでいたのかもしれません。だらかこそ、私に普通でいいんだと教えてくれたのかもしれません。

【あだっち】
いい話ですね。世の中の常識やこうしなければならないという世界観に対しての解決策のように聞こえました。「あなたしかできないことが必ずある」という風なメッセージにも感じました。

プロとアマチュア

【あだっち】
お話をお聞きしていて、ふと気になったことがあります。そもそもプロの芸って何なんですか?

【ひまわりさん】

分かりやすいのは、それでご飯を食べられるということですかね。世の中大半の人が話すことができて、会話ができます。その「話す」ということに特化してお金をいただいている。芸になっていなければきっとお金は発生しないですよね。

【あだっち】
確かに。では、仕事と芸って何が違うのですか?我々も仕事して提供するサービスに対してお金をもらっています。だけど、なぜ区別していると思いますか?一般的な意味のことを聞いているのではなく。

【ひまわりさん】
仕事の中でも勿論、人と人との心の交流があるかと思うのですが、芸としてお客様に何かを伝える場合、その密度が濃いと思います。

【あだっち】
密度ですか。面白い表現ですね。私も仕事中の“言葉の密度”を少し意識してみたいと思います。

人生の豊かさとは

【AJ】
そろそろ最後の質問とさせて下さい。インタビューの最後はこれで終わりたいという願望があります(笑)。「ひまわりさんにとっての人生の豊かさとは?」と尋ねられたら、何とお答えになりますか?

【ひまわり】
う〜ん・・・人生の豊かさ・・・ですか。

「どんな小さな事にも感動できる人で居続けられること・・・」

ですかね。

豊かさ・・・喜びとか悲しみとか、そうゆう・・・心が動く自分でいられることが豊かさに繋がる気がします。例えば、子供と一緒に散歩をしていて花を見つけて「花だ!」って思うだけではなく、花を見て「わぁ、きれいだねぇ!」って心が動く。そんな瞬間を誰かと共感し、味わえたらとても幸せです。どんなことにも感動できる人。大きな感動だけでなく、小さなことにもちゃんと心が動く。それって幸せとか豊かさと言えるのではないかなぁと思います。

【あだっち】
素敵なお考えですね。とても響きました。ありがとうございます。
では、記念すべき第1回目のインタビューはここまでさせて頂きます。楽しいお時間でした。ありがとうございました。

【ひまわりさん】
こちらも楽しかったです。そうか!!私はこんな事を考えているんだなって思いました(笑)。ありがとうございました。

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足立 潤哉

足立 潤哉

人材育成を生業としている30代後半の管理人が、純粋に“善い”と感じたものを残していくためのブログです。 活動拠点:茨城県つくば市

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