【Interview #1】講談師 日向ひまわり (1/3)

インタビュー
いい顔で日々を過ごしている人は素敵である。「量」の時代から「質」を重視する時代へシフトしている昨今において、“人生の豊かさ”のようなものを考える人も多いと思います。これまでお会いした中で、何か惹かれる人生を歩んでいる人々の裏側をインタビュー形式で紹介していきます。記念すべき第1回目は女性講談師の日向ひまわりさんにお話を伺いました。

【Interviewer(以降:あだっち)】
日常の中で講談師の方とお会いして話す機会は滅多にないですので、この機会を楽しみにしておりました。本日は台本なしのインタビューですので、今思っていることをそのままお答えいただくと助かります。

【Interviewee(以降:ひまわりさん)】
普段から「嘘を付かない」ことを意識しているので、このインタビューでも等身大の自分で質問にお答えできればと考えています。どんなことをお聞きいただけるのか、楽しみにしています。よろしくお願いします。

自分にしかできないこと

【あだっち】
では早速ですが、スタートさせていただきます。幼い頃に「自分にしかできないことをしてみたい」と思い、そこから「声に関わる仕事なら可能性がある」と感じたと伺いました。自分にしかできない事へのこだわりは講談師になった今もお持ちでしょうか?

【ひまわりさん】
現在それが出来ているかどうかは別として、今でも「自分にしかできないことをやりたい」という思いがあります。講談の世界に入ったのは、師匠である神田山陽(二代目)の温かい芸風と人柄に惹かれたからですが、芸そのものに興味が沸いたというより、「講談はやっている人が少ないし、これは珍しい」という思いもどこかにあったからだと思います。でも、入門してみると珍しいからやってみたではとても済まされない大小さまざまな壁がありました。講談は男社会です。

【あだっち】
芸の世界は男社会のイメージです。

【ひまわりさん】

ネタも男の人がやることを前提に作られています。女性は声が高調子になるとキンキン耳障りになったり、講談をやる上で障害があるということに気が付いたんです。私はどう芸と向き合っていけばいいのか、入門して3年が経とうという頃、考え始めました。例えば、お客様の興味を引くような目新しいことをしたとして、その時はパッとにぎやかになります。

でもそれだと、ネタの持つ味わいと言いますか、その内容が心の中にじんわり残って、帰り道にお客様が「あ〜今日はいい時間だったなぁ」と思っていただけるようなものにはならないんじゃないか。先輩から「明るい色の衣装を着て華やかに高座に上がったほうが女性の芸人は売れる」と助言をもらいましたが、私はずっと黒紋付きに袴姿で高座に上がっています。これには自分なりの想いがあって…。

【あだっち】
“自分なりの想い”…詳しく聞かせてください。

【ひまわりさん】
はい。こだわりとでも言いましょうか。着ているものでネタの邪魔をしたくなかったです。高座着は何を選んでもいいので、女性は明るい着物を身につけることが多いです。でも、それではネタをお楽しみいただく客様の想像力を狭めてしまうような気がしたんです。黒紋付きならとてもシンプルですし、どんな人物を表現してもお客様は殿様、職人、お姫様、子供、色々な人物を自然に想像できるんじゃないかなぁと。黒は頭の中で着せ替えがしやすいと思いました。私はお客様の心の中に残るようなネタを届けられる講談師になりたい、その為にどうしたらいいかを考えるようになりました。

【あだっち】
なるほど。色によって想像力を邪魔してしまうとお考えなのですね。

【ひまわりさん】
はい。それを踏まえて、まず高座に上がる前の準備として自分の声の幅を広げる努力をしました。女性は声が甲高くなってしまったり、低くして潰すとダミ声で聞きずらくなります。芸の指導をしてもらっている先輩から「目障りなのはある程度我慢できる。でも、耳障りな音(声)は数秒持たない」と言われました。女性特有のかなぎり声は自分がお客様に届けたい、やりたい芸をやる上で邪魔になります。そのためにも声はとても重要だと思い、意識を強く持つようになりました。黒紋付き姿もそうですが、自分なりに講談をやる上で大切にしたいと想うことがいくつかあります。自分の芸に対する想いを貫くことは、結果として「自分しかできない芸」に繋がるのではないかと思っています。

自分のスタイルの確立

【ひまわりさん】

派手なことをやっても私には合わないと思っていました。人それぞれ、合う合わないってありますよね。それでいうと、華やかであることに徹するのは私の人(にん:人柄)ではない、じゃあどうしようかと。そんな時、芸の師匠と思える人、尊敬する先輩、宝井琴柳先生と出会いました。琴柳先生の高座はどのネタにも、そこに生きた人の心がありありと描かれていて、聞き終わった後に気持ちよい余韻が残ります。

【あだっち】
目指すべき理想の人との出会いがあったのですね。

【ひまわりさん】
琴柳先生の高座はどのネタにも、そこに生きた人の心がありありと描かれていて、聞き終わった後に気持ちよい余韻が残ります。「講談師を続けるなら琴柳先生のような高座を務めてみたい」、自分のなりたい姿や目標、そして、やりたいことに入門3年目で気がついたんです。そうしたらもう、やるしかないという感じで早速、琴柳先生に稽古を願い出ました。でもなかなか承諾をもらえなくて、半年通ってやっと了解をもらいました。先生に稽古をつけてもらう中で、基礎を固めることがいかに大切かを教わりました。それまでの自分がいかにその場しのぎで高座を務めてきたかということを知り恥ずかしかったです。

【あだっち】
あるべき姿に対して、徐々に解像度が高まっていったように感じています。ただ、半年通ってようやく稽古の承諾ですか・・・一筋縄ではいかないのですね。

【ひまわりさん】

「自分にはこれしかない」というスタイルを見つけましたが、それで生涯食べていけるかどうか分からない世界です。売れたくない芸人はおらず、私も売れたくないとは思っていません。ただ、自分のしたい形や信じるものを覆してまでやるのなら、講談でなくてもいいんじゃない?と思ってしまって。そう考えると、私が講談師であり続けるのならば、やっぱり「これだ」というものを信じてやるしかないと思いました。こんな風にいうと腹を括っているように思われるかもしれませんが、実際は何かあるごとに迷うばかりで…

【あだっち】
その迷いは、周囲の評価のために腹をくくったわけでもないですし、周囲の期待に合わせて自分のスタイルをつくり出したわけではないという認識で合っていますか?

【ひまわりさん】
そうなんです!まわりばかりを気にしていたら、本来やるべきことがわからなくなったり、できなくなりそうで怖いので、迷った時は「今、私ができることは何?」と自問自答するようにしています。そうすると「目の前のお客さんの為に精一杯高座を務めよう!」という、実にシンプルな答えに辿りつきます。なので私の場合、いきなり腹を括って今のスタイルや考えに辿り着いたのではなく、環境や周りの人からもらう色んなことと自分なりに向き合い、経験を積み重ねていく中で、「嘘を付かないで正直にいよう」とか、「自分らしい芸をしたい」という考えになっていったんだと思います。

【あだっち】
なるほど。経験を積み重ねていく中でスタイルが確立されていく。面白いですね。お話を聞きながらいくつか聞きたいことが出てきました。

つづく…

▼次のインタビューは下記のリンクへ

足立 潤哉

足立 潤哉

人材育成を生業としている30代後半の管理人が、純粋に“善い”と感じたものを残していくためのブログです。 活動拠点:茨城県つくば市

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